日本国内で動くLLMという選択肢:国内ホストのモデルは本当に速いのか
「LLMのAPIを使いたいが、リクエストを海外に出したくない」という相談をよく受けます。金融、医療、自治体まわりの案件では、性能の前に置き場所が要件になることがあります。
FastMetalのカタログには、日本国内で実行されるモデルが9つあります。カタログ上は説明文が Japan: で始まるもので、残りは Global: です。この記事では、その9つが実際に何なのか、そして「国内だから速い」という直感がどこまで正しいのかを実測で確かめます。
国内で動く9モデルの内訳
3つの系統に分かれます。
| 系統 | モデル | 位置づけ |
|---|---|---|
| さくらインターネット | japan-gemma-4-31b、japan-qwen3.6-35b、japan-kimi-k2.6、japan-kimi-k2.7-code | 国内GPUで実行されるオープンウェイトモデル |
| さくらインターネット(既存) | llm-jp-3.1-8x13b-instruct4、gpt-oss-120b | japan- 接頭辞の導入前から提供 |
| AWS 東京リージョン | anthropic-claude-sonnet-4-6、anthropic-claude-haiku-4-5、mistral-voxtral-mini-3b-2507 | Bedrock の ap-northeast-1 |
japan- という接頭辞は「どこで動くか」を表していて、「誰が作ったか」ではありません。japan-kimi-k2.6 の中身はMoonshot AIのKimi K2.6で、モデルそのものは同じです。違うのは推論が走る場所だけです。
なお japan-kimi-k2.6 と kimi-k2.6 は別エントリとして両方存在します。前者が国内実行、後者が海外プロバイダ経由です。同じモデルを置き場所だけ変えて比べられる、という意味では分かりやすい構成になっています。
国内ホストは速いのか:実測してみた
ここが本題です。「国内で動くから速い」と言いたくなりますが、データはもう少し複雑なことを示しています。
FastMetalは公開している比較コーパスで、同じ日本語プロンプト20問を全モデルに投げた結果を持っています。出力1トークンあたりの所要時間(中央値)で並べ、国内・海外を混ぜて抜粋するとこうなります。
| モデル | 実行場所 | 出力1トークンあたり |
|---|---|---|
mistral-voxtral-mini-3b-2507 | 国内 | 4,115マイクロ秒 |
gpt-oss-120b | 国内 | 4,500マイクロ秒 |
anthropic-claude-haiku-4-5 | 国内 | 7,155マイクロ秒 |
gemini-3.5-flash | 海外 | 7,404マイクロ秒 |
glm-5.2 | 海外 | 8,099マイクロ秒 |
llm-jp-3.1-8x13b-instruct4 | 国内 | 8,994マイクロ秒 |
anthropic-claude-sonnet-4-6 | 国内 | 15,575マイクロ秒 |
anthropic-claude-opus-5 | 海外 | 17,629マイクロ秒 |
glm-4.7 | 海外 | 27,758マイクロ秒 |
上位2つは確かに国内実行です。しかし同じく国内で動く anthropic-claude-sonnet-4-6 は23位で、海外の gemini-3.5-flash より遅い。国内の llm-jp-3.1 も海外の glm-5.2 に負けています。
正直に言うと、地理はレイテンシの支配的な要因ではありません。 モデルのサイズと、提供元の推論スタックのほうがはるかに効きます。日本とアメリカ西海岸の往復は物理的に100ミリ秒前後で、これは数秒から数十秒かかる生成時間の中では誤差に近い。
では国内ホストの意味はどこにあるのか。レイテンシではなく、データがどこで処理されるかを説明できること です。稟議や委託先の審査で問われるのはそこであって、200ミリ秒の差ではありません。速度が目的なら、国内かどうかではなくモデルを選び直すほうが効きます。
見落としやすい罠:推論トークンが請求を膨らませる
国内モデルを試すときに、最初につまずくのがここです。
「「こんにちは」とだけ返してください」という、どう考えても数トークンで済む質問を6モデルに投げて、課金対象の出力トークン数を測りました(2026年8月31日実測)。
| モデル | 出力トークン | 思考の長さ | この一言のコスト |
|---|---|---|---|
japan-gemma-4-31b | 2 | なし | 約0.0002円 |
llm-jp-3.1-8x13b-instruct4 | 7 | なし | 約0.0006円 |
gpt-oss-120b | 38 | 93文字 | 約0.003円 |
japan-kimi-k2.7-code | 56 | 148文字 | 約0.030円 |
japan-kimi-k2.6 | 121 | 491文字 | 約0.038円 |
japan-qwen3.6-35b | 178 | 653文字 | 約0.028円 |
同じ「こんにちは」を返させるのに、出力トークンは2から178まで、 89倍 の開きがあります。コストでは japan-kimi-k2.6 が japan-gemma-4-31b の約189倍です。
理由は単純で、6モデルのうち4つが推論モデルだからです。応答の前に考えた内容が reasoning_content に入り、それも出力トークンとして課金されます。japan-qwen3.6-35b は「こんにちは」と言うために653文字ぶん考えていました。
さらに厄介な挙動があります。同じテストを max_tokens: 24 で走らせると、推論モデル4つは 本文が空で返ってきました。 HTTPは200、課金は24トークン、content は null。思考の途中で上限に達して、本文を書き始める前に打ち切られたためです。
curl https://api.fastmetal.ai/v1/chat/completions \
-H "Authorization: Bearer $FASTMETAL_API_KEY" \
-H "Content-Type: application/json" \
-d '{
"model": "japan-gemma-4-31b",
"messages": [{"role": "user", "content": "こんにちは"}],
"max_tokens": 600
}'
実務上の対策は2つです。短い応答が欲しいだけなら推論モデルを選ばないこと。推論モデルを使うなら max_tokens を絞りすぎないことです。「安全のために小さくしておこう」が、払ったのに何も返ってこない状態を作ります。
用途で言えば、分類やタグ付けのような短い応答の量産には japan-gemma-4-31b が向きます。腰を据えて考えさせたいときに japan-kimi-k2.6、コード寄りの作業に japan-kimi-k2.7-code という使い分けです。
プレビュー枠であることは知っておいてください
さくらインターネット経由の4モデルはプレビュー提供です。実際、以前このカタログにあったQwen3-Coderの2エントリは予告なく提供終了になり、しばらく気づかれないままエラーを返し続けていました。
これは国内ホストに限った話ではなく、モデルカタログ全般に言えることです。特定のモデルIDを1つだけ決め打ちで本番に埋め込むのは避けて、フォールバック先を用意しておくのが安全です。この考え方はLLMルーターとはで詳しく書いています。
まとめ
- FastMetalのカタログには国内実行のモデルが9つあり、説明文の
Japan:で見分けられます - 国内ホストの価値はレイテンシではなく、処理される場所を説明できることにあります
- 推論モデルは短い応答でも出力トークンを大量に消費します。同じ一言でコストが189倍変わりました
max_tokensを絞りすぎると、課金だけされて本文が返らないことがあります
現在提供中のモデルと料金は /models と /pricing で確認できます。1つのAPIキーで国内モデルも海外モデルも同じ形式で呼べるので、要件が変わったときにモデルIDを差し替えるだけで移せます。